5404a598.jpgドキュメント死刑囚/篠田博之(ちくま新書)
死刑について僕自身の考えは、かなり感情的な見地によります。その一方で、ああいう犯罪に対しては制度も虚無化しているし…と、本書を読んで改めて実感。
ご存知、宮崎勤・小林薫・宅間守に関するノンフィクション3本立て。タイトル通り獄中〜死刑判決後に焦点をあてており、さすが、偏ったマスコミ記事やTV番組では知り得なかった事実を知ることができます。
著者は三者からかなりの信頼を得ており、数多くの手紙のやりとりが本書のベースになっています。もちろんTVドラマのようなわかりやすい心の交流ではありませんで、ただし、彼らの人間性を理解する上ではすこぶる興味深いものばかり。社会的には完全に規格外の感性でありかつ、善悪二元論で定義しきれない闇に迫っています。
3人に共通するのは家族/両親との関係。とくに宮崎と小林は明確なトラウマを持っており、悪魔に魂売り渡したきっかけではないかと思いたくなる重要なエピソードが綴られています。子供時代の団らんを思いだして購入したちゃんぶ台の上で犯行に及んだ時の宮崎勤…。急死した母親について絶望的な思いを綴った小林薫の小学校卒業作文…。己れの淡々とした日常までも歪んでしまいそうな記述がこれでもかと続きます。こういった犯罪の根本原因って、結局は家庭問題にゆきつくのだろうか、などと結論づけるつもりはありませんが、本書を読みおわって気になったのは、三者の親がどういう人生を歩んできたかということです。もちろん、ほとんど言及されていません。彼らがそれぞれの状況で親を憎み、それが犯行の一因になっていたとしたら、加えて語られるべきはさらに奥。そういう意味で、昨今の家庭崩壊の事件は暗澹たる思いがします。この20年で社会はますます複雑化し、同類の犯罪がおきるシステムは誰からみても更新中であると。
この手のノンフィクションはたいてい大著が多いなか、非常に簡潔にまとまった新書版。読みやすいけど内容の重さは尋常ではありません。
最近は趣味性重視のまったり読める本が多かったもんで、ひさびさに胸に迫ってしまいました。
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